どのフォーマットにおいても、Tierというものは常に存在する。最もTierが流動的なフォーマットはもちろんスタンダードで、新しいエキスパンションが出るたびに当たり前のように入れ替わるし、新たなカードが刷られていない間にも、デッキの研究が進んでいくにつれ、既存のアーキタイプの上位互換が現れることで、Tierは変わっていく。

 Tierというものは、レガシー環境にも当然存在するのだが、その事実を知っている人は案外多くない。好きなカードをほとんど使えるカジュアルフォーマットというイメージが根付いてしまっているため、レガシーを遊んだことのないプレイヤーには、Tierなんて存在しないカオスな環境だと思われている。レガシーにもメタゲームがあり、流行りのデッキがあるのだ。

 その証拠にこの準決勝で対決する2人は、ともに同タイプのデッキを携えている。

 まずは山田。普段はエンチャントレスを好んで使っているプレイヤーだそうだが、本日のデッキはメインにエンチャントが1種類しか入っていない。そう、《騙し討ち/Sneak Attack(USG)》のみだ。《騙し討ち/Sneak Attack(USG)》を使うデッキといえば、SneakShow、SnTである。

 SnTは、《騙し討ち/Sneak Attack(USG)》と《実物提示教育/Show and Tell(USG)》によって大型クリーチャーのマナコストを踏み倒し、そのまま対戦相手をも踏み倒してしまうデッキだ。元々は強すぎるファンデッキの一つとして考えられていたSnTだったが、アヴァシンの帰還でのとある悪魔の出現によって、一躍Tier1へと躍り出た。
 
 そう、ご存知《グリセルブランド/Griselbrand(AVR)》である。

 《グリセルブランド/Griselbrand(AVR)》により、SnTはその最大の弱点、「一度コンボを決めてしまった後の二の矢がない」ということを完全に克服したのだ。そして《グリセルブランド/Griselbrand(AVR)》を得たSnTはレガシーを牽引するデッキとなり、「もしかしたら禁止かもしれない」と言われるほどとなった。

 Tier1となったSnTは様々なデッキに、専用のサイドボードを入れさせるほどになった。ゴブリンは《棘鞭使い/Stingscourger(PLC)》を使わざるを得なくなったし、《金粉のドレイク/Gilded Drake(USG)》や《誘惑蒔き/Sower of Temptation(LRW)》は以前よりも使われるようになった。バウンスやコントロールを奪うクリーチャーを入れておくことで、《実物提示教育/Show and Tell(USG)》対策としたのだ。

 だが、SnTはその弱点すらも克服した。Magic2013で、さらなる武器を手にしたのだ。

 その武器を仕込んでいるのが、川北の使用するOmni-Tellである。

 《全知/Omniscience(M13)》を場に出すことにより、全ての呪文をフリースペルで唱え、そのターン中に勝利してしまうデッキだ。これなら今までのクリーチャー対策のサイドボードをされたとしてもまったくの無問題である。

 勝ち方は単純。《全知/Omniscience(M13)》を《実物提示教育/Show and Tell(USG)》で場に出し、《燃え立つ願い/Burning Wish(JUD)》を打つ。そして《洞察力の花弁/Petals of Insight(CHK)》をサイドから持ってきて、望む回数だけキャストする。そして《燃え立つ願い/Burning Wish(JUD)》で《ぶどう弾/Grapeshot(TSP)》を持ってきてゲームセット。《全知/Omniscience(M13)》を出し、《燃え立つ願い/Burning Wish(JUD)》を持ってさえいればその瞬間に勝利することが出来る。これは、ミラーマッチにおいても強力な武器となるのだ。

 《全知/Omniscience(M13)》の有無が勝負の分かれ目となるか、はたまたコンボデッキ同士ならではの、怪奇な戦いとなるのか、いずれにせよ、実物提示合戦は静かに幕を開けた。

 GAME 1

 スイスラウンドを1位で突破していた山田は当然先手を選ぶのだが、配られた7枚はすぐライブラリーへと戻す。そして新たに手にした6枚が、2枚の《Force of Will》に《グリセルブランド/Griselbrand(AVR)》、《騙し討ち/Sneak Attack(USG)》というもの。これは仕方なくキープする。一方の川北はオープニングハンドに満足がいっている様子。

 島をサーチすることの出来るフェッチランドをお互いに2枚並べ合う、ミラーマッチらしいスタート。山田が3ターン目に島をセットし、何もせずターンを返してきたことで、川北は何かを察したように、ターン終了時に《汚染された三角州/Polluted Delta(ONS)》を起動し、《Volcanic Island》をサーチした。そして《渦まく知識/Brainstorm(ICE)》で手札を循環させると、不要なカードを積んだライブラリーを、もう1枚のフェッチランドを使用することで、リフレッシュする。《不毛の大地/Wasteland(TMP)》を警戒しないこの《Volcanic Island》サーチということは、山田のデッキがSnTであることに川北は気がついたようだ。
 
 《思案/Ponder(M12)》を打ちはするものの、アクションを起こさない。いや、起こせないでいる。

 一方、手札に何もアクティブな呪文を持たない山田は、そもそも動くことが出来ない。理由が違えど、2人はただお互いのターンを返しあっている状況だ。

 と、山田が4枚目の土地を置かずにターンを終了したことで、川北は長考に入った。手札に潜む2枚の《呪文貫き/Spell Pierce(ZEN)》で、自分のコンボ成立を守れるかどうか、慎重に吟味しているのだ。結局動くことはせず、島を置くのみ。

 そんな川北を尻目に、山田は《水蓮の花びら/Lotus Petal(TMP)》をプレイすると、それをすぐに生贄に捧げ、《騙し討ち/Sneak Attack(USG)》を開示する。浮きマナが2枚目の《水蓮の花びら/Lotus Petal(TMP)》しかないことを慎重に確認した上で、川北はこれを《呪文貫き/Spell Pierce(ZEN)》で打ち消す。この《呪文貫き/Spell Pierce(ZEN)》には山田も《Force of Will》(リムーブしたカードは《Force of Will》)で対応するも、前述したとおり、川北はもう1枚、《呪文貫き/Spell Pierce(ZEN)》を持っていた。山田の《騙し討ち/Sneak Attack(USG)》は着地せず。

 川北、再び《思案/Ponder(M12)》をキャストした後に思案にふける。そして《渦まく知識/Brainstorm(ICE)》もプレイし、今度は素早く選択。フルタップに近い状態の山田に対して、一見すればチャンスに見えるのだが、勝ち急ぐことをせず、落ち着いて自らのターンを終える。そう、この対決は《実物提示教育/Show and Tell(USG)》をキャストすれば勝ちというわけではないのだ。むしろ、相手に《グリセルブランド/Griselbrand(AVR)》を出されて、そのまま負けてしまうかもしれない。《騙し討ち/Sneak Attack(USG)》ならば一方的にこちらが殴るだけなのだが、《実物提示教育/Show and Tell(USG)》はそうではない。手札に1ターン目からずっとたたずむ《実物提示教育/Show and Tell(USG)》は、まだ使うべきではないと、川北は判断しているのだ。

 が、川北が《圧服/Overmaster(TOR)》を手にしたことで、状況は一変した――少なくとも、そう見えた。川北は《圧服/Overmaster(TOR)》をキャストしたのだ。そして《実物提示教育/Show and Tell(USG)》に手を伸ばしながら、言った。

「《圧服/Overmaster(TOR)》ってこのターン、こちらの呪文がカウンターされないんですよね?」

 《グリセルブランド/Griselbrand(AVR)》によるドローからの《Force of Will》を警戒しての発言だ。その質問に返答したのは山田だ。

「いや、次の、じゃないですか?}

「え?」

《圧服/Overmaster(TOR)》 (赤)
 ソーサリー
 このターンにあなたが唱える「次の」インスタント呪文1つかソーサリー呪文1つは、呪文や能力によっては打ち消されない。
カードを1枚引く。

 かくして、川北は打ち消されない《渦まく知識/Brainstorm(ICE)》をプレイした。

 再びゲームはドローゴーの繰り返しになる――と思われたが、川北の次の行動はとても早かった。

 セットランドからの《定業/Preordain(M11)》、そして《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor(WWK)》である。

 たまらずこの《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor(WWK)》には《呪文貫き/Spell Pierce(ZEN)》を合わせる山田だったが、ドロースペルをたくさん使用していた川北の手札に対抗手段がないはずもなく、手札からは《誤った指図/Misdirection(MMQ)》が。

 《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor(WWK)》が山田のライブラリーのトップをそのまま上に残したことにより、山田はドローする権利を放棄した。


川北1-0山田


 お互いに、打ちづらい《実物提示教育/Show and Tell(USG)》をサイドアウトする。山田は《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique(MOR)》、川北は《赤霊破/Red Elemental Blast(4ED)》と《青霊破/Blue Elemental Blast(4ED)》、《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique(MOR)》をサイドイン。サイドカードの枚数が多い分、川北のほうが優勢か。


 GAME 2


 第3ゲームでの最初の呪文は、山田の2ターン目の《思案/Ponder(M12)》となった。一方の川北は島、《霧深い雨林/Misty Rainforest(ZEN)》と並べて、3ターン目に《定業/Preordain(M11)》を唱える。

 と、ここで山田は《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique(MOR)》をドロー。しかも山田は1枚だけ入っている《Karakas》を前のターンにセットランドしていた。川北のターン終了時に着地を試みるのだが、川北の《赤霊破/Red Elemental Blast(4ED)》に阻まれてしまう。

 山田は自分のターンではアクションを起こさず、反対に川北が《渦まく知識/Brainstorm(ICE)》。妨害手段とドローにあふれる手札を見つめながら、自分のターンではやはりアクションを起こさない。《古えの墳墓/Ancient Tomb(TMP)》を置くのみでターンを終える。

 と、そんな川北の手札の状況を察してか、ここで勝負に出る。おもむろに《渦まく知識/Brainstorm(ICE)》を打ち、そして《圧服/Overmaster(TOR)》をキャストしたのだ。ちなみに手札には《圧服/Overmaster(TOR)》によって守りたい呪文はなく、ライブラリーにもそれは積み込まれていない。

 川北は思考の海に落ちる。《圧服/Overmaster(TOR)》を通すことで簡単にゲームに敗北するかもしれない。どうするべきか。手札のカウンターを使ってしまうべきか。何度も自問自答しているのだろう。

 海底から戻ってきた川北が選んだのは、3枚の土地を寝かせることだった。そして先ほど山田が着地に失敗したクリーチャーを、スタック上へすべり込ませる――《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique(MOR)》だ。山田には対抗手段がなく、それは無事にスタックの網を抜けて、山田の手札を暴いた。

 2枚の《Force of Will》に《渦まく知識/Brainstorm(ICE)》、3枚の《水蓮の花びら/Lotus Petal(TMP)》が、川北の眼前に映し出される。手札を見てもこの《圧服/Overmaster(TOR)》がどうやって自分を刺しうるかが想像出来ない。それもそのはずで、山田ですらこの《圧服/Overmaster(TOR)》が自身のどんな呪文を守るのか知らないのだ。川北に読み取れなくて当然である。

 長考の末、川北は《渦まく知識/Brainstorm(ICE)》をライブラリーの底に送ることを選んだ。そして、《圧服/Overmaster(TOR)》を《青霊破/Blue Elemental Blast(4ED)》で打ち消すことにした。山田の価千金の《圧服/Overmaster(TOR)》が、貴重な妨害手段を奪ったのだ。《圧服/Overmaster(TOR)》を墓地に置き、ターンを川北へと返す。

 とはいえ、以前として有利なのは川北だ。まずは《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique(MOR)》で攻撃し、《思案/Ponder(M12)》をキャストする。そしてお目当ての1枚を手に入れ、フェッチランドでライブラリーを新鮮なものにすると、2枚目の《思案/Ponder(M12)》で更にカードを探しに行く。
 
 何もアクションを起こせないでいる山田を尻目に、川北は《燃え立つ願い/Burning Wish(JUD)》で《洞察力の花弁/Petals of Insight(CHK)》を手札に加えた。本来はコンボパーツだが、この状況では貴重なアドバンテージ源となる。

 この状況に見かねた山田は3回、呪文を唱えた――3枚の《水蓮の花びら/Lotus Petal(TMP)》を次々と並べたのだ。

 山田に動きがないうちに一気に勝負を決めたい川北は、前のターンで見せていた《洞察力の花弁/Petals of Insight(CHK)》をプレイするが、山田は《呪文貫き/Spell Pierce(ZEN)》で抵抗する。ギリギリのところで手綱は離さない。

 だが、山田が優位に立つには、手札がとにかく足りない。川北は《渦まく知識/Brainstorm(ICE)》、《定業/Preordain(M11)》と連続でキャストし、手札に有効牌をどんどん供給していく。そしてあふれる手札から《外科的摘出/Surgical Extraction(NPH)》を放った。対象は、《呪文貫き/Spell Pierce(ZEN)》。

 これにより晒された手札は《Force of Will》2枚、《グリセルブランド/Griselbrand(AVR)》、《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn(ROE)》。この実質2枚の手札の山田に対して川北が突きつけたのは、《燃え立つ願い/Burning Wish(JUD)》。そして《ぶどう弾/Grapeshot(TSP)》。

 ストーム2の《ぶどう弾/Grapeshot(TSP)》が、この長い長い戦いに終止符を打った。


川北2-0山田


川北Wins!

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